映画予告編の悦楽

映画予告編の魅力をひたすら語っていきます!

「ブラック・スキャンダル」予告 / 危険な臨場感を持って描かれる三者の暗躍

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「ブラック・スキャンダル」(2015)の予告をご紹介します。マサチューセッツ州汚職事件を描いた犯罪映画です。

 

映画 『ブラック・スキャンダル』本予告【HD】2016年1月30日公開

https://youtu.be/2baNOqTWg7k?si=6LMz1DtYz3erbeC7

 

 

 

*******

 

 

 

〇危険な臨場感を持って描かれる三者の暗躍

全体的にシリアスな雰囲気で、BGMや効果音も犯罪映画特有の危険な臨場感を演出するようにチョイスされています。

 

作品ごとに役作りを徹底することで知られるジョニー・デップですが、予告冒頭に登場した姿は彼のイメージとはかけ離れた恐ろしいギャングそのもので、強いインパクトを残します。

 

序盤に主要登場人物3人をナレーションとともに紹介します。全員主役級の名優ばかりなのでこれだけで見ごたえがあります。

 

後半はBGMも盛り上がり、過激なシーンが畳みかけられます。

 

クライマックスでは音楽が止んだ後、ジョニー・デップが拍手をしながら後ずさりする場面があり、その拍に合うようにまた音楽が再開してタイトルが映し出されます。スピード感がある後半の展開からの落差がとても良いです。

 

最後はジョニー・デップが「誰かに見つかったら、消せばいい」と子供に語り掛け、直後彼によって消された男の姿が映し出されて予告が終了します。地面にあおむけになった男と黒塗りの車を上空から撮った画が分かりやすく印象的な締めになっています。

 

○本編を鑑賞後、予告に対して思ったこと

これより先は「ブラック・スキャンダル」本編のネタバレ・感想を少しだけ含むのでご了承ください。

 

私は何年か前にこの予告を観て面白そうだと思ったので本編も鑑賞しました。緊張感があり面白い作品だったのですが、そこで少し残念だったのが、主要人物3人のうち上院議員のビリーがあまり物語にかかわっていなかったことです。

予告を観たときは幼馴染のギャングとFBI、そして政治家の3人が裏でつながって大事件を起こす、ということを期待していたのですが、実際はギャングのリーダーのジミーとFBIのジョンが情報を共有してお互いに成り上がるというストーリーで、上院議員ビリーはそれほど出番がありませんでした。

ビリーを演じるベネディクト・カンバーバッチが好きな俳優だったから余計に残念だったということもありますが、過度に期待してしまったのは予告の作り方にも原因があると思われます。

 

本編でビリーの出演シーンはかなり少ないですがこの予告では多めに取り入れてわざと存在感を強めています。

日本語字幕も、”I can help you, Jimmy, and you can help me.”という台詞に対して「3人の利害が一致する」と訳して無理矢理ビリーのことも含めています。

 

ジミーとビリーが乾杯するシーンには関係のないビリーのシーンを挿入して3人が結託している感じを出しています。

 

ただ、予告のために本編の台詞、映像、順番を多少いじるというのはよくあることで、今回が悪質な改変であるかというとそこまでではないと思います。ベネディクト・カンバーバッチというスターが出演するのだからそれを強調するのは当然だし、そもそも本編もビリーなしで成立する話なのにジミーと政治家のビリーが兄弟だったという事実も盛り込んでよりセンセーショナルに見えるようにしているので、予告だけのせいではありません。

 

●予告編詐欺という言葉

このブログ、今回紹介した予告編でちょうど100作品目にあたるので、前々から書きたかったことについて書きたいと思います。

 

予告から想像した作品のイメージと実際の本編に乖離があった場合、「予告編詐欺だ」という人がいます。今まで紹介した中だと、「スーサイド・スクワッド」の予告はダークな雰囲気で期待値を上げていたのに対して、実際はDC作品がポップ寄りに方針転換したがっていた時期でもあったため本編はそれほどダークな感じにはならず、残念だった人も多かったみたいです。

下の本国の予告編動画には、がっかりした人が残したコメントがたくさんあるので興味のある方はぜひご覧ください。

 

Suicide Squad - Comic-Con First Look [HD]

https://youtu.be/PLLQK9la6Go?si=QWt_ynubArUsgAbk

 

単に予告では面白そうだったけど本編はつまらなかったという場合もあり、それは予告が悪いわけではないと思います。設定はよくできていたけどそれを上手くふくらませることができなかった、というだけです。

 

そうではなく、実際の作品とは違う方向性で予告を作ってしまうと、観た後に「期待はずれだった」という感想を持たれてもしょうがないと思います。

 

私がパッと思いつくのだと、「シンクロナイズドモンスター」(2016)は結構予告のイメージと本編が違っていたなと思いました。予告を観る限りではある女性がなぜか巨大なモンスターとシンクロして騒動を起こす様を描いたとてもコミカルなB級映画を期待しましたが、実際は一人の女性が抱えるリアルな問題、葛藤を軸に描いていて、特に後半は「あ、そういう感じなんですね…」と何度か思いました。

 

シンクロナイズドモンスター PV

https://youtu.be/Gvu7xykR2Ss?si=G6nDUgsjEF_SAIWp

 

ナチスに仕掛けたチェスゲーム」(2021)も、予告で期待させるようなチェスの試合でナチスに一矢報いる場面はなく、やや残念でした(これは邦題のつけ方のせいでもありますね)。ただこれは現実の出来事と主人公の幻想が入り混じって展開する作品であり、チェスシーンも色々な捉え方ができるので予告・邦題が誤誘導かと言われると判断が難しいです。

 

7/21(金)公開『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』予告篇

https://youtu.be/xpcHVroziDg?si=AkMBkMJ1nqL1jKzR

 

まあこれらは単に自分の好みに合わなくて残念だったというだけの話で、これらの作品に対して逆に「予告では期待していなかったけど本編は面白かった」という感想を持つ人も必ずいるはずです。

 

また意図的に本編とは違う方向からアプローチして完成度の高い予告ができるパターンもあり(「ソーシャル・ネットワーク」など)、そのような試みはたくさんあった方が面白いなと思います。

 

本編が期待外れだった時、「予告の方が面白かった」「予告の方が本編より観る価値がある」などと言う人がいますが、私はそんなことは言わないようにしています。予告はあくまで本編をもとにして本編を観てもらうためだけに作られたものなので、本編より予告の方が価値がある、なんてことはあり得ないと思っています。

 

読んでいただきありがとうございました。

「プレミアム・ラッシュ」予告 / 自転車で爆走するシーンを詰め込んだアクション予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「プレミアム・ラッシュ」(2012)の予告をご紹介します。前回「50/50 フィフティ・フィフティ」に引き続きジョゼフ・ゴードン=レヴィットが主演の作品です。

 

プレミアム・ラッシュ (字幕) - 予告編

https://youtu.be/OJlt6D_ukn8?si=sg3_DksBxHiXGUdg

 

 

 

*******

 

 

 

〇自転車で爆走するシーンを詰め込んだアクション予告

ロードバイクで"超特急便"を届ける仕事をするワイリーが、請け負った荷物をきっかけに謎の男に狙われます。


予告としては短めで、自転車で街を爆走する映像が大部分を占めています。迫力のあるカーチェイスシーンを予告で切り取るアクション映画はたくさんありますが、自転車のアクションシーンは新鮮で観ている人を飽きさせません。

 

この20分で3回も殺されそうになったんだ!」という台詞は彼の置かれている状況を端的に表現しています。

 

最後の台詞がかなり良い役割を果たしていると思います。

誰でも一度はやられてるさ

でも時には やり返す

追い詰められる描写の多かった主人公が反撃に繰り出すことが示唆されます。言葉で説明してしまうのはやや強引な気もしますが、まあ短い予告なのでこれぐらい割り切っても良いかもしれません。

 

最後は、低い障害物の下をアクロバットな動きで潜り抜ける大技を見せつけて予告が終わります。

 

読んでいただきありがとうございました。

「50/50 フィフティ・フィフティ」予告 / 作品のテイストを上手く伝える構成・切り取り方

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「50/50 フィフティ・フィフティ」(2011)の予告をご紹介します。ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演のコメディ・ドラマ作品。

 

50/50 フィフティ・フィフティ」 予告編

https://youtu.be/48Q9wPAFXH4?si=gtgFKBkRmvwe1ejg

 

 

 

*******

 

 

 

〇作品のテイストを上手く伝える構成・切り取り方

主人公がガンだと宣告されるシリアスな場面から予告が始まり、親友に報告しますが、彼は生存率が50%と聞かされて「悪くない!カジノならバカ勝ちだ」と、意外にも超ポジティブに受け取ります。この映画はガンにかかった主人公の話だけど重くならずポップに描いでいるということがこの場面で明確に伝わってきます。タイトルの50/50ともかかっているので、最初に持ってくるにはぴったりのシーンです。

 

髪を剃りナンパに繰り出す流れは、病に侵された主人公を描く他の映画では見たことのない展開で意外性があります。

 

ただ予告中ずっとポジティブなトーンで進むわけではなく、ガンが転移していることが知らされてからのパートでは主人公や周りの人々の感情をリアルに描いた場面が続きます。音楽も派手ではないですが作品によく合っています。

 

予告を通して、親友や母親、カウンセラーなど周囲の人たちの台詞も丁寧に切り取っているため、短い予告の中でも各登場人物がちゃんと印象に残るようになっています。

 

特に親友と抱擁を交わす場面は、前半でふざけ合っていた描写を入れたおかげで余計にグッときます。

 

所々に入るオレンジ色の背景のテロップも言葉選びや文字の出し方がよく考えられていて、作品に上手くマッチしていると思います。

 

読んでいただきありがとうございました。

「ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー」予告 / 構成の妙が光る現代アート×ホラー予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー」(2019)の予告をご紹介します。Netflix制作の、アート作品にまつわるホラー映画です。

 

『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』予告編 - Netflix [HD]

https://youtu.be/atAKGtyGQww?si=i7kw-C4RvNBpvVBR

 

 

 

*******

 

 

 

〇構成の妙が光る現代アート×ホラー予告

分かったような顔でアート作品を批評する主人公を演じるのはジェイク・ギレンホール。胡散臭い演技もとてもよく似合います。


本当は彼に審美眼などなく、アートを金儲けの手段としてしか見ていないことが示唆されます。

 

ある作家の遺作が人気を博しますが、不可解にもその絵画の中の人物たちは意思を持ったように動き、ついには人間を襲い始めます。

 

予告序盤に気取った様子でアートを語っていた彼が、あまりにも異常な現象に取り乱しているという振り幅が短い予告の中でも分かりやすく表現されています。

 

そしてその現象は他のアート作品にも及び始め、酷評された作品たちも人間を襲い出します。ここもやはり序盤で描かれたことが振りとしてよく効いています。

 

締めの場面も良く選び抜かれていると思います。球状の作品に女性が殺害されてしまいますが、被害者の女性も込みで作品だと捉えられ、SNS上で拡散されてしまいます。

最後に一番怖い場面を持ってきてインパクトを残すこともできたと思いますが、あえてこの場面を選ぶことで作品全体の雰囲気を暗すぎないものにして、観る人の裾野を広げられていると思います。作品のテーマの一つである現代アート業界への皮肉も込められていて、良い役割を果たしています。

 

読んでいただきありがとうございました。

「CLIMAX クライマックス」予告 / ダンスミュージックに乗せて描く狂気

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「CLIMAX クライマックス」(2018)の予告をご紹介します。人里離れた廃墟に集まったダンサー22人を描くミュージカル・ホラー映画。

 

CLIMAX Trailer

https://youtu.be/Z_82BfwRHq4?si=ugYipOYDRziwWkyY

 

 

 

*******

 

 

 

〇ダンスミュージックに乗せて描く狂気

ダンサーたちがドラッグ入りのサングリアを誤って飲んでしまったことにより次第に乱れ狂っていく様子を描いた作品で、この予告ではテンポの良いダンスミュージックに乗せながら作品のキーワードを羅列していく形式をとっています。作りやすく、かつ印象にも残りやすいので他の予告でも使ってほしい優れたフォーマットです。

 

初めは登場人物や舞台となるロケーションなどを紹介するワードが続きます。

 

ですが次第に”A KNIFE””FIRE”など物騒な単語が出てきます。途中で音楽がくぐもった音になるのも不穏な雰囲気を助長しています。

 

作品の中で重要になるものは繰り返し登場します。”SANGRIA”や”A FLAG”は登場する度に同じような映像が続くので、目まぐるしく流れる単語と映像の中でブリッジのような役割を果たしています。

 

一方で同じ単語でも1回目と2回目で様子が異なる映像を差し込むものもあり、ダンサーたちが徐々にエスカレートしていく様を上手く表現しています。一見シンプルですが実は色々なことを考えて作られた予告だと思います。

 

読んでいただきありがとうございました。

「エンパイア・オブ・ライト」予告 / 穏やかな予告の中に漂う危うさ

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「エンパイア・オブ・ライト」(2022)の予告をご紹介します。英国の劇場を舞台とした物語です。

 

『エンパイア・オブ・ライト』予告編│2023年2月23日(木・祝)公開!

https://youtu.be/CxQeGdR10eo?si=qp0N0FFDz75Lwj_a

 

 

 

*******

 

 

 

〇穏やかな予告の中に漂う危うさ

初めに舞台となるエンパイア劇場について描かれます。この作品の脚本はコロナ禍に執筆されたということもあり劇場が持つ特有の魅力がテーマの一つで、そのことが予告でも表現されています。

 

前半は劇場を経営するヒラリーとそこで働き始めたスティーヴンの二人が明るめに描かれています。

 

全編を通して流れているのはAngel Olsenの” Go Home”という曲で、穏やかながら力強さを持った歌声が特徴的です。

 

Go Home

https://youtu.be/N9oA2fshdAs?si=A9agdfHlpDAmTRAh

 

後半からは警察や劇場に押し寄せる暴徒など穏やかでない描写が続きます。このパートでもBGMを変えずにシームレスに描いているのがこの予告の良い点だと思います。

 

ヒラリーのいる部屋に警官が乗り込むシーンは、予告にしては長い時間をかけていますがこの場面で何かが明らかになるわけではありません。なぜ警官に追われているのか、彼女の表情は何を意味するのか…

 

ただ終盤は前向きなシーンを重ねてることで予告として収束させており、作品としての印象を損なわないようにしています。

ヒラリーは自らの劇場で何を観ているのでしょうか。

 

読んでいただきありがとうございました。

「アナザー プラネット」予告 / 壮大な設定のSFを静かに描いた予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「アナザー プラネット」(2011)の予告をご紹介します。ある女性が主人公のSFドラマ作品です。

この予告は英語版ですが、動画に日本語字幕を付ける方法は「クリスティーン」の記事をご参照ください。

 

Another Earth (2011) Movie Trailer

https://youtu.be/U-sWD5Sf2JU?si=d5sJKuVUmMIjoa5m

 

 

 

*******

 

 

 

〇壮大な設定のSFを静かに描いた予告

空に浮かぶ惑星と初めて交信するTVのライブ映像から予告が始まります。ジョーン博士が呼びかけた相手が英語で応答し、さらには自分もジョーン博士だと名乗ります。この場面、緊迫したやり取りをする博士たちとそれをTVで見守る人々という構図が分かりやすく、異星人の存在に驚き困惑する登場人物たちの演技も大げさすぎずより作品に引き付けられます。

 

TVを観て驚く人たちの中で主人公のローダの顔がアップで映し出され、その惑星にはもう一人の自分がいることが字幕で示されます。

 

穏やかなBGMに切り替わり、彼女のストーリーが少しずつ明らかになります。これは惑星間の交流を描く壮大なSFではなく、一人の女性を描く物語だということをきちんと伝えています。

このパートではThe Cinematic Orchestraの” That Home”という楽曲が使われています。作品によく合うように選び抜かれた曲だと思います。

 

That Home

https://youtu.be/m4iuOb8GKQ8?si=X5sE762DTCACq0MF

 

車で事故を起こし人の命を奪ってしまった彼女は罪悪感に苛まれ、もう一つの惑星に住む別の自分は同じ過ちを起こしているのか、そこで自分もやり直せるのではないかと気にせずにはいられなくなります。

 

彼女が持つチケットは、空に浮かぶ惑星に行くためのものでしょうか。この予告はもう一人の自分に対して彼女がどのような行動をとるのかということには触れておらず、本編へ上手く誘導できている良い構成だと思います。

 

予告全体を通して空に浮かぶもう一つの地球の画が効果的に使われています。

 

この作品は日本語版の予告は見つかりませんでしたが本編はDVDや配信でちゃんと見られるので興味のある方は是非ご覧ください。

本編を観ると、予告は時系列を微妙に変えて巧みに構成されていることが分かると思います。

 

読んでいただきありがとうございました。