「恋人たち」予告 / 等身大の演技と寄り添うような楽曲で構成された邦画予告の最高峰
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「恋人たち」(2015)の予告をご紹介します。
3人の主人公を中心とした人間ドラマを描いた作品。
以前紹介した「ぐるりのこと。」の橋口亮輔が監督を務め、主題歌も引き続きAkeboshiが担当しました。
「ぐるりのこと。」に負けず劣らず、本当に心に沁みる予告となっています。こちらの方が7年新しい作品なので、画質も良いです。
映画『恋人たち』予告編
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○等身大の演技と寄り添うような楽曲で構成された邦画予告の最高峰
初めに主人公3人の日常生活について描かれます。
特に成嶋瞳子演じるパートで働く主婦の、家でのシーンと弁当屋でのシーンが、とてもリアルに日常の閉塞感を上手く表現できています。どちらも一瞬のシーンですが、彼女が置かれている状況を見事に伝えられていると思います。
そして中盤で、主人公の一人である篠塚アツシの過去について語られます。
絶望に襲われ、生活もままならなくなった篠塚は、3年たった今も犯人に対してぶつけようのない憎悪を抱いていますが、先輩の黒田の素直で寄り添うような言葉に心を動かされます。
この作品の登場人物は、多くがアマチュアの俳優であり、それ故にこの場面のような素朴で実直な演技が生まれたのかなと思います。
「飲み込めない思いを、飲み込みながら
それでも人は、生きていく」
この映画のテーマがストレートに言葉で表されます。タイミングもよく考えられており、電話を切られて立ち尽くす四ノ宮のやるせなさを際立たせます。
この予告では3人の主人公の物語が一つの軸に収められていますが、実はそれぞれ異なる出発点を持ち、異なる方向に進んでいくことが分かります。
弁当屋で働く高橋は、平凡で退屈な日々を送っていたが、ある男との出会いから人生が変化していき、
弁護士の四ノ宮は、上手く回っていた日常から、ある出来事をきっかけに歯車が狂いだし、
橋梁点検業の篠塚は、3年前のトラウマから抜け出せずにいたが、人々との交流を通して少しずつ前を向いていく。
3人が異なるストーリーを持つからこそ、「それでも人は、生きていく」という主題が鮮明に伝わってきます。
そして最後は、篠塚の仕事中の一場面で締めくくられます。この部分も、大げさでなく、それでも前向きに生きていこうとする彼の姿勢を表現できていると思います。
後半で流れる主題歌はAkeboshiの”Usual life”です。「ぐるりのこと。」の”Peruna”もそうですが、本当に物語のいろんな面を引き出してくれる曲だなと思います。異なる3人のストーリーが並走する本作と見事に調和し、全体を包み込んでいるように感じます。
また予告の最初に、時間を割いて監督が伝えたかったことを文章で示していますが、この演出も実直にテーマを伝えようとする本作にふさわしいと思います。
個人的に邦画の予告の中では最高の作品だと思っています。
読んでいただきありがとうございました。