映画予告編の悦楽

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【番外編】「リターン・トゥ・シネマ」 / ユニバーサル・スタジオの劇場再開宣言

いつもは映画の予告編を紹介していますが、今回は番外編です。

 

この動画は映画予告ではなく、コロナウイルス感染拡大による映画館の閉鎖期間を経た後、再び映画館に来てもらうために大手映画会社のユニバーサルが作成したプロモーションビデオです。

 

ユニバーサル・ピクチャーズ Presents「リターン・トゥ・シネマ」

https://youtu.be/Lrj303G4vZQ

 

 

 

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日本では、2020年の4月から5月にかけて全国の映画館がほぼ閉鎖された後、6月から感染対策を徹底した状態で徐々に上映が再開されました。

しかし客足がすぐに戻ったわけでは当然なく、座席も一つ飛ばしで販売するなど到底従来の売り上げを見込める環境ではなかったので、7月ごろまでは公開を足踏みしていた新作映画が多数控えていた状況でした。

 

ユニバーサル・スタジオの劇場再開宣言

そんな中で公開されたのがこの映像です。ユニバーサルが手掛けてきた数々の名作をつなぎ合わせて、映画館での体験のすばらしさを再確認させてくれました。

 

E.T.」「ミニオンズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「グレイテスト・ショーマン」「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」「ジュラシック・パーク」「テッド」「8 Mile」など歴代の名作から、「透明人間」「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」「ドクター・ドリトル」など公開延期の憂き目にあった新作まで多くの映画の映像が使われています。

本当にいろいろな作品が用いられているので、観る人によって心に刺さる部分が違ってくるでしょう。

 

まずは字幕で、映画館の現状について端的に表現されます。

確かにこれほど全世界的に映画館での上映が規制されるような事態は今までなかったでしょう。

バック・トゥ・ザ・フューチャー」から切り取られたマイケル・J・フォックスのこの表情は、未知のものに直面しているという意味で我々の心情とシンクロする部分があります。

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映画館での上映がストップしたことに対するファンや制作者たちの心情が、いくつもの作品のシーンを使って表現されます。

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どの作品かはわかりませんが、草原を手でなでる画が、この時期の静寂さを上手く表現できている気がして、印象に残っています。

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そしてBGMが止み、映画上映が再開されることが宣言されます。

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ここでは作品中の映画館でのシーンが使われており、「バーン・アフター・リーディング」からジョージ・クルーニーフランシス・マクドーマンドが、「ノッティングヒルの恋人」からジュリア・ロバーツヒュー・グラントが、映画館で一緒に映画を観るカットが採用されています。

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ここで挿入されている、” at last, the great, wonderful day”という台詞は、「透明人間」(1933年のオリジナル版)から引用されています。ジャック・グリフィン博士が長い実験の果てにやっと透明人間になることに成功したことと、やっと劇場での映画上映が再開されたことをかけてこの台詞が選ばれたのだと思います。「素晴らしい日々でありますように」という字幕は意訳ですが、この状況にふさわしい訳し方ではないでしょうか。

バーン・アフター・リーディング」と「ノッティングヒルの恋人」の映像に「透明人間」の台詞を重ねるなんて、ユニバーサルにしかできない面白い表現だなと思います。

 

ここの部分で、観た人は映画館で上映が始まるときのワクワクする気持ちを思い出すことができたのではないでしょうか。

特に「ノッティングヒルの恋人」のこのシーンは、映画デートに行くことになったけれど眼鏡をなくしてしまったヒュー・グラントが、代わりに度付きの水中ゴーグルをかけてきて、それをジュリア・ロバーツがからかってポップコーンを投げつけるというとてもコミカルな場面で、劇場で映画を誰かと一緒に観るという楽しさが詰まっていて素晴らしい切り取り方だと思います。

 

 

その後はユニバーサル作品の名場面を惜しげもなく畳みかけ、映画を観たときの楽しさ、興奮、感動を思い出させてくれます。

ワイルド・スピード」のようなド派手なアクション作品から、「SING/シング」のような全世代で楽しめるファミリー映画、「博士と彼女のセオリー」のような実話に基づく感動作、「ゲット・アウト」のような本当に怖いスリラー作品まで、ユニバーサル作品の幅の広さを改めて痛感しました。全くタイプの異なる数多くの作品が一つの流れに沿って配置されていて、今までにない映像作品になっています。

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BGMの終わりに「ドクター・ドリトル」から、ドリトル先生の”Somehow, we just belong together.”という台詞で締められます。

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最後は2作品から同じ構図のシーンが取り上げられています。

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一つ目は公開を控えている「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」から、主人公ドミニクと仲間のハンの熱い抱擁です。これは「ワイルド・スピード」シリーズの9作目にあたりますが、ハンは6作目で死んだと思われていた人気キャラです。今作で生きていたことが判明し、ドミニクたちと再会を果たすというワイスピファンが予告で歓喜した名場面です。

2つ目は「E.T.」から、E.T.とエリオット少年の別れの感動シーンです。この新旧2つのシーンの取り合わせは、この時期、この状況でしか生まれなかったものだと思います。

 

 

全体を通して使われている楽曲は、「LIFE!」の予告でも紹介したJosé Gonzálezの” Step Out”という曲です。静かで繊細な前半部と、力強く壮大な後半部から構成されており、長い上映停止期間を経てやっと上映再開が決まった、というこの状況にぴったりの本当に良い選曲だと思います。製作者たちの「また映画館に戻ってきてほしい」という気持ちが、この楽曲を通して切実に伝わってきます。

 

 

この異常事態の中で生まれた作品ですが、ユニバーサルの歴史とこれからへの期待を感じることができる素晴らしい映像に仕上がっていると思います。

 

 

 

コロナ禍により、映画業界でも本当に様々な変化がありました。

全世界で映画館での上映が中止するという異常事態に陥ったこと。

上映が再開されても席数が限定されていたり再び上映中止を強いられたりと厳しい状況が続いたこと。

劇場公開予定だった作品が何度も何度も公開延期となったこと。

上映再開からしばらくは新作の劇場公開がためらわれ、ジブリなど過去の名作がリバイバル上映されたこと。

劇場での収益が見込めない状況で、ディズニーを筆頭に大手がネット配信サービスのみでの公開、または劇場との同時公開というスタイルに舵を切ったこと。

その決定に対して、監督など制作サイドや劇場からの反発があったこと。

そんな状況の中でも、日本ではアニメ「鬼滅の刃」の劇場版が公開され、歴代1位の爆発的ヒットを記録したこと。

 

失ったものは大きいですが、私は一人の映画好きとして、これらのことを忘れないようにしたいと思います。

 

 

読んでいただきありがとうございました。