映画予告編の悦楽

映画予告編の魅力をひたすら語っていきます!

「風立ちぬ」予告 / 強いこだわりを感じるジブリ予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「風立ちぬ」(2013)の予告をご紹介します。スタジオジブリ宮崎駿監督作です。

(下の動画はトロント国際映画祭で上映されたときに公式チャンネルで公開されたもので、英語字幕がついています)

 

THE WIND RISES Trailer | Festival 2013

https://youtu.be/PhHoCnRg1Yw

 

 

 

*******

 

 

 

〇強いこだわりを感じるジブリ予告

全体として通常の予告とは一味違った雰囲気で、監督の強いこだわりを感じます。

台詞が少なく文字で説明する部分が多い点は、昔の映画の予告に近いように思います。

 

主人公の堀越二郎が詩を朗読する場面から始まります。演じるのは「新世紀エヴァンゲリオン」などの監督として知られる庵野秀明で、本職の声優ではないが故の独特な発声や節をつけたような読み方が印象的です。

 

予告としてはかなり珍しいですが、主題歌である荒井由実の「ひこうき雲」をフル尺で流しています。そのため予告全体の尺も4分強と通常よりかなり長めです。(それでも、さすがスタジオジブリの作品なだけあって公開前後は普通に映画館でこのバージョンの予告が流れていた気がします)

曲と映像を合わせることを強く意識しているわけではないようですが、曲の中で2回サビがあり、それだけで予告に抑揚が生まれています。

楽曲が流れている間は台詞がほとんどなく、作品を説明する縦書きの文章が添えられています。

 

前半は1920年代の日本の時代背景を描いています。

 

この映画、史実に基づいているということもあり、ファンタジーの世界を描いてきたスタジオジブリの過去作と比べると派手さは少ないですが、関東大震災による揺れ、波の描き方はやはり目を見張るものがあり、さすがの表現力です。瓦葺きの民家や線路が波打つ表現は初めて観たとき衝撃的だったのを覚えています。

 

雪の降る屋外に並べられたベッドの上でうずくまる病人たちの画は、それだけでこの時代の過酷さを強く印象付けます。

 

主題歌の最後の部分では曲の音量が大きくなり予告の山場となっています。

 

ヒヤッとするほど身を乗り出して紙飛行機をキャッチするシーンがなんとなくジブリ的だなと感じました。

 

特に後半は夢に向かう堀越二郎についてかなり前向きに描かれていますが、曲が終わるタイミングで飛行機が破損し墜落する場面と菜穂子が吐血する場面が入り、観てる人を不安にさせます。


この作品は単なる成功譚ではなく、堀越二郎の大きな挫折について描いた作品であることが予告からも読み取れます。タイトルロゴには大破した飛行機とそれを眺める堀越二郎の姿を重ねており、作品の主題に対する強い意図を感じます。

 

最後は森の中で堀越二郎と再会した里見菜穂子の台詞で締められます。他の予告には見られない、静かで余韻のある終わり方です。

 

読んでいただきありがとうございました。