映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「最強のふたり」(2011)の予告をご紹介します。
体が不自由な大富豪と、その介護人となった若者の交流を描いたフランス映画です。
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○シンプルながら非常に完成度の高い傑作予告
ストーリーはシンプルですが、劇中の台詞や俳優たちの演技が印象に残るように上手く作られているという印象です。使われている楽曲もとても良いです。
障害で体を動かすことができない大富豪のフィリップが、スラム街出身の青年ドリスを雇うまでの経緯を説明した後、ドリスが全く経験のない介護に苦戦する様子が描かれます。この部分では二人の関係はうまくいっていないのですが、Earth, Wind & Fireの” September”という底抜けに明るい曲をつけることで、全く重くならずコメディタッチで表現されています。
後半では少しシリアスな曲に変わり、二人が立場を超えて絆を生んでいく様子が描かれます。ストーリー的にも前半とギャップがありますが、フィリップの友人という第三者の視点を入れることで自然に表現できています。
バックで流れているのはVib Gyorの” Red Lights”という曲です。Vib Gyorはもう解散してしまったバンドであまり知られていない曲ですが、前半で超メジャーな曲を使いつつ、後半でマイナーながらも作品に合う素晴らしい楽曲を使用しているところから、音楽もよく考えて選ばれているということが分かります。
一瞬ですがドリスがちゃんと介護に励むカットもあり、短い予告編の中でもしっかり伏線を回収しています。
二人が外の世界に飛び出し、パラグライダーで空を飛ぶ場面で、ドリスが「飛ぶのは俺じゃない!」と叫ぶシーンがあります。少しだけ本編のネタバレになってしまうのですが、実はドリスは高いところが苦手で、パラグライダーを体験したいというフィリップを連れて行ったら自分も飛ぶことになってしまい、「自分は飛びたくない」という意味でこの台詞を言ったのです。ですが予告編ではこの台詞だけ切り取っているので、あたかも「一緒に飛んでるけど、フィリップが今自由に空を飛んでいるんだ!」という前向きな発言に聞こえます。これは本当に予告編の妙で、作った人はうまいことやったなと思います(フランス語では本当のニュアンスが伝わっているのでしょうか)。予告編の中でとても感動的で重要な場面になっています。
もっと言うと、二人がディナーの席で笑い合っている場面も、本編ではかなり下世話な話で盛り上がっているのですが、予告ではすごくさわやかなシーンに見えます。切り取り方が本当にうまいです。
あと個人的な好みもあるかもしれませんが、フィリップを演じるオマール・シーが見せる表情がどれも最高で、二人で楽しもうとする純粋な感情が伝わってきます。
彼はこの作品で数々の映画賞を受賞し、その後いろいろな作品で見かける機会が増えました。
構成・演出・音楽・演技、どれをとっても完成度が高く、さらに本編を超えた良いシーンを生み出す離れ業もあり、予告編のお手本になるような作品だと思います。
読んでいただきありがとうございました。