「ぐるりのこと。」予告 / 大げさでないけど心に残る、邦画予告の名作
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「ぐるりのこと。」(2008)の予告をご紹介します。
1990年代の日本を舞台に、ある夫婦の物語を描いた作品です。
ぐるりのこと。(プレビュー)
*******
○大げさでないけど心に残る、邦画予告の名作
今まで紹介してきた中で初の邦画予告編となります。
個人的な意見ですが、邦画の予告編は傾向として、定型にはまったものが多く印象に残りづらいイメージがあります。
ですが、この「ぐるりのこと。」の予告編は、とても気に入っていて何度も観ている作品なので、ぜひ紹介したいです。
この予告編では、10年という長い月日の中で、変化していく夫婦の感情と関係性を、この映画の主題歌である、Akeboshiの”Peruna”がすべて引き出しています。
この映画のために書き下ろした楽曲ではないらしいですが、予告編を観た後だと「ぐるりのこと。」の主題歌はこの曲しかありえないと思ってしまいます。
初めのパートでは、結婚する二人と周囲の反応について描かれています。しっかり者の妻と頼りない夫という、平凡な夫婦の平和な日常を切り取っています。
中盤では、突然襲った子供の死という苦難に対し、苦悩する二人の様子が描かれます。どのシーンも大げさでなく、少しずつ壊れていく心をリアルに表現しています。
法廷画家である夫の仕事風景を通して、1990年代の日本の時代背景についても描いているのがこの作品の特徴です。心に傷を負った夫は、あまりにも悲惨な事件に対して、仕事として受け入れられず葛藤します。
それでも、最後のパートで二人は支え合って、前を向いて進んでいきます。
夫の上司を演じる柄本明の
「大事にできるものがあるときは、大事にしとけよ」
という言葉が心に残ります。
最後に出てくるこの映画のキャッチフレーズは、作品を端的に表していて、予告編の締めにふさわしい言葉だと思います。
また主題歌の話に戻るのですが、この予告編で主題歌”Peruna”は少し変わった使われ方をしています。初めのパートで流れて、中盤ではテイストの違う曲に変わるのですが、最後のパートではまた”Peruna”が流れます。異なる場面で異なる味を引き出せるこの曲ならではの演出だと思います。
悲しさもたくましさも見事に表現する出演者の演技、そして物語のイメージと完璧に調和する音楽。
邦画洋画といった括りは関係なく、ずっと心に残る素晴らしい予告編です。
Akeboshiは、この監督の「恋人たち」という作品でも主題歌を担当しているのですが、その予告編も素晴らしい出来なのでそのうち紹介します。
読んでいただきありがとうございました。