映画予告編の悦楽

映画予告編の魅力をひたすら語っていきます!

「アンネ・フランクと旅する日記」予告 / 悲劇とファンタジーのバランス感覚

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「アンネ・フランクと旅する日記」(2021)の予告をご紹介します。

アンネの日記」にまつわるアニメーション作品です。「コングレス未来学会議」のアリ・フォルマンが監督・脚本を務めています。

 

映画『アンネ・フランクと旅する日記』予告編

https://youtu.be/x7QPLr6-IQM

 

 

 

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〇悲劇とファンタジーのバランス感覚

誰もが知っている、「アンネの日記」に記されたナチスによるユダヤ人迫害の悲劇を前提としたうえで、予告では安易に恐怖を与えるような演出を極力控え、軽やかに美しく仕上げることで多くの人が「観てみたい」と思える素晴らしい予告になっています。

 

アンネとその空想の友達キティについて、初めにナレーションで丁寧に説明が入ります。私も不勉強でそのことは知らなかったので、非常に助かりました。

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この予告がどんなテイストなのかまだ分からない中、アムステルダムの街並みに合うようなオシャレなBGMで始まるのが少し意外でした。

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「皆 アンネが誰だか知ってる

でも 何があったか話さない」

というキティの言葉は、現代人のアンネに対する認識を、間接的ながら端的に表していて、無駄がなく上手いと思いました。

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後半からは、戦時中のアンネと現代に現れたキティが並行して描かれます。

ナチスによる迫害をストレートに表現した描写は予告では必要最小限に抑えられていますが、歴史を知っている我々にとっては十分な怖さを感じます。

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ですが、隠れ家に逃れ空襲におびえる描写の直後、それとは正反対にキティが町中を自由に飛び回る場面とBGMの透き通ったような歌声が重なるところが、この予告の印象を決定づけているように感じます。

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とても印象深い予告ですが、意外と物語に関して得られる情報は少なく、雪山で2つの軍勢が衝突する場面や気球に記されたメッセージなど、本編に対して興味をそそられる演出も抜かりありません。

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最後のシーンは絶妙で、思わず舌を巻いてしまいました。

爆撃機による空襲の中で、「天使たちが見える」と言うアンネ。キティを生み出す基となったアンネの想像力が、最後の最後で改めて印象付けられます。

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恐怖心に訴えかけてインパクトを与えるのも一つの手段ですが、安易にそうせず物語のすばらしさを伝えようとする方針を明確に感じる良い予告だと思います。

 

読んでいただきありがとうございました。