映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「チョコレートドーナツ」(2012)の予告をご紹介します。
ゲイのカップルと育児放棄された障害児が、偏見の中でも一緒に暮らしていこうと努力する物語です。
『チョコレートドーナツ』予告編
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○圧巻の歌声が響く傑作
本編を見ると、この予告は奇をてらうことなくとても素直に作られていることが分かります。それでも、数々の困難の中で幸せに生きようとする3人の物語と、ルディの圧巻の歌唱シーンがこの予告をいつまでも心に残る傑作にしています。
全体として重いストーリーなだけに、予告の初めは明るい音楽とルディの華やかなショーの場面で彩られているのはすごく良い演出だと思います。
ルディとポールが、ダウン症を抱え親から見放された少年マルコと出会い、手探りしながらともに暮らしていく様子が描かれます。各シーンはそれぞれ短く切り取られていますが、3人の演技が本当に上手くて、日常の何気ない幸せがリアルに表現されています。
しかし、血縁関係を持たない3人の生活は認められず、ゲイであること、障害を持っていることに対する差別や偏見もあり、マルコは2人から引き離されます。
法廷で、理解のない検事に対してルディが声を荒げる場面は胸に突き刺さります。
その後、ルディを演じるAlan Cummingが” I Shall Be Released”を熱唱する場面が流れます。予告だけでもこれが素晴らしいシーンだということが分かります。
この曲、もともとBob Dylanの楽曲でそのカバーになりますが、「チョコレートドーナツ」のサウンドトラックで音源を聴くことができます。ボブ・ディランははぐれ者の心情を表現した楽曲が多く、この曲もそういった意味を持つ歌詞なので物語とリンクする部分が多々あります。ぜひチェックしてみてください。
ナレーションも、単なる状況説明にとどまらず、チョコレートドーナツ、ハッピーエンドといった本作で重要な言葉を上手に伝えています。
この映画、本編も鑑賞しました。素晴らしい作品だったのですが、個人的に重い映画ほど何度も観るのがはばかられてしまうので、代わりにこの予告をときどき観ることで作品の記憶を風化させずに残しています。
本編鑑賞後に観ると、ルディの歌唱シーンが余計に響くと思います。
読んでいただきありがとうございました。