「ビバリウム」予告 / 綿密に作りこまれた唯一無二の世界観
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「ビバリウム」(2020)の予告をご紹介します。
ジェシー・アイゼンバーグとイモージェン・プーツ主演の作品です。
精神崩壊!?一度入ると抜け出せない恐怖の街 映画『ビバリウム』予告編
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●予告編と相性抜群のシチュエーションスリラーというジャンル
シチュエーションスリラーとは、ある特異な環境設定に置かれた人物たちの心情を描く作品のことを言うのですが、この類の作品は非常に予告編と相性が良いです。
YouTubeやSNSで、まず予告を観てもらうことが重要な現代においては特に、タイトルやサムネイルでその特異な設定を上手く伝えられれば興味を持って観てもらえる可能性が高まります。(予告を観てもらえても本編を鑑賞してもらえるとは限りませんが)
実際、かなりマイナーな作品なのにYouTubeでは予告編の再生回数が異様に高いスリラー・ホラー作品がいくつかあります。
私も予告編好きとしてその手のものは気になるのですが、なにせ怖いものや気持ち悪いものを観るが苦手なのでなかなか手が付けられないことが多いです。
でも最近ちょっとずつ耐性がついてきたので、良いものがあったら紹介したいと思います。(苦手な方はごめんなさい)
〇綿密に作りこまれた唯一無二の世界観
「ビバリウム」は、新居の内見をしていたカップルが見知らぬ街から抜け出せなくなるというストーリーです。
知らない街から帰れないという絶望的な状況と、街や家の均質的でポップな外観のミスマッチ感がこの映画の大きな魅力だと思うのですが、この予告では映像・音楽によってその魅力が存分に伝わってきます。この映画に対してこれ以上の予告は作れないんじゃないかと思うほど完成度が高いです。
最初に家を紹介してくれる不動産屋の男性が登場するのですが、彼の見た目・言動が絶妙に不気味で序盤から良い味を出しています。
その後、帰ろうとしても同じ家に戻ってきてしまうという奇妙な状況に陥ります。
助けを呼ぶ声がむなしくこだまする感じとか、音楽の入るタイミングなど、随所に工夫が見られます。
ジェマ(アイゼンバーグ)が屋根に上って街を見渡すシーンは、どこまでも続く均質な屋根と、デフォルメされた雲の描写が絶望的な状況を煽ります。
「9番の家」での生活を余儀なくされてから、段ボールに入った赤ん坊が届きそこに書かれたメッセージに従い彼を育てることになります。
ここから先は不可思議なシーンが多く散りばめられていて、異常なことが立て続けに起こり主人公たちが徐々に追い詰められておかしくなっていく様子が伝わってきます。
子供が奇声を発するシーンや中指を立てるシーンが粒立てられていますが、予告を観ただけでは意味がよくわからないでしょう。こういう特殊なスリラー作品は意味の分からないシーンをいくつも入れた方が興味がわきやすい気がします。
日本語の字幕も非常にセンスがあって素晴らしいと思います。
最初の「お住まい探しは慎重に。」という入りがまず良いです。
締めの文言が、
「ようこそ、夢のマイホームへ」
↓
「ようこそ、悪夢のマイホームへ」
と変わる演出は、この作品をこの上なく端的に表しています。
この予告、何度も観れば観るほど音楽や色合いが作品に合うように選び抜かれているなと思います。特に最後のタイトルが出る場面で陽気な笛の音色を重ねる演出は、スリラーらしくない分余計に記憶に残ります。
ネタバレはしたくないので具体的には言いませんが、この映画の本編では後半で大きな変化があり、そのシーンはものすごくビジュアル的にインパクトがあるのですが、予告では一切出していません。この要素を盛り込めば、予告しての印象は強くなりますが、本編でそのシーンを観たときの驚きは当然減ってしまいます。予告製作者の方もこれを入れるかどうかは悩まれたのではないかと勝手に想像しますが、入れないことで予告全体のテンポも良く仕上がっているので、抑制のきいたナイスジャッジだと思います。
●予告動画のおまけ
余談ですが、予告編の最後に前売り券の特典などグッズの紹介が入ることがあります。公開から時間が経ち、今では手に入らないそのグッズに思いをはせるのも予告編の楽しみ方としてあると思います。
「ビバリウム」の予告でもムビチケ購入特典のポストカードが、「集めてつなげよう!」という文言とともに紹介されています。(この映画、良い作品ですが劇場で観る人が周りに何人もいるタイプの映画ではないので集めるのは難しいし、集めてつなげたところで何になるのかなどいろいろ気になります)
読んでいただきありがとうございました。