映画予告編の悦楽

映画予告編の魅力をひたすら語っていきます!

「君たちはどう生きるか」予告 / 事前情報なしの鑑賞体験について

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「君たちはどう生きるか」(2023)の予告をご紹介します。名作を多数生み出してきたスタジオジブリ宮崎駿監督が引退作と銘打った作品です。この予告はアメリカでの公開前に発表されたものです。

 

THE BOY AND THE HERON | Official English Trailer

https://youtu.be/t5khm-VjEu4?si=unOu4pc9viOw5RDb

 

 

 

*******

 

 

 

〇日本では作られなかった本作の貴重な予告

日本で公開される前は予告を一つも発表していなかった本作ですが、海外での公開時にはちゃんと予告が作られました。まあ日本で公開された後なので情報をすべて隠すことはできないし、それなら予告も作ろうということかもしれません。

 

予告として観ると、本作は登場人物がそれぞれ個性的で場面転換も多いので意外と予告向きの作品だったのかなと思います。



主要登場人物はほぼ全員この予告に出ているように思います。ちなみに英語版の吹き替えでは青サギ役のロバート・パティンソン、勝一役のクリスチャン・ベール、大伯父役のマーク・ハミル、老ペリカン役のウィレム・デフォーなど豪華な俳優たちが名を連ねています。

(日本でもありますが、アメリカでもアニメ映画の吹き替えを有名な俳優が担当することが多い気がします。日本のように「ちゃんとした声優に吹き替えしてほしい派」の人がいたりするのでしょうか)

 

最後に少しコミカルなシーンを入れたりして一般的な予告の体裁をとっています。

 

●事前情報なしの鑑賞体験について

正直今回はこの予告を紹介したいというよりは、日本では事前情報なしで公開されたことについて書きたくて本作を取り上げました。

 

日本では2023年7月14日に公開されましたが、それまでに本作に関して発表されたのは下のポスター1枚で、予告編どころかあらすじやキャストなど一切伏せられた状態で公開を迎えました(しかも事前情報なしで公開するということ自体を発表するのもかなり公開が近くなってからで、それまでは「予告も発表されてないけど本当に公開するのか…?」と不安になっていた記憶があります)。

原案となった同名の小説はありますが、そのメッセージのみ踏襲して新しいストーリーになるらしいということが分かっていました。制作サイドは、この情報過多の時代に何も知らない状態で映画を観るということがどのような効果をもたらすのか、実験的に試したかったという意図があったようです。背景には製作委員会方式でなく単独出資方式の採用や、同様に事前情報を制限した前年の「THE FIRST SLAM DUNK」の興行的成功などがあるようですが、ここでは私の個人的な感想を書きたいと思います。

 

予告編のみを紹介するブログを書くぐらい予告を観るのが好きなので、「プレステージ」の予告紹介で触れたように多少内容が分かってしまうのは許容して面白そうな映画を探すために予告は観まくるし、好きな作品の続編など予告があろうがなかろうが絶対観ると思っている作品でも必ず予告を観てから本編を鑑賞します。

ただ、「君たちはどう生きるか」の予告なしの鑑賞体験というものにはものすごく心躍ってしまいました。もともとジブリ作品が好きだったというのもありますが、宮崎駿監督の最新作をまっさらな状態で観られるということが嬉しくて、公開初日に観に行きました。この映画を楽しみにしている人全員が同じ気持ちで公開日を迎えるという一体感もたまらなかったです。

興行成績も良かったようなので、一切宣伝しないというやり方は成功したと言っていいかもしれません(宣伝をした場合と比較することができないので一概には言えませんが)。

 

もちろんこれはスタジオジブリ宮崎駿という圧倒的なネームバリューがあってのことなので、他の作品は基本的に作品の魅力を伝えられるような予告を作って各所で流すのが効果的であることは変わらないでしょう。売上に大きな影響を持つのは熱狂的な映画ファンではなく「面白そうだったら観ようかな」ぐらいのライトな一般層であるともいえるかもしれません。

実際、ここでも予告を紹介した「マーベルズ」は、予告などは通常通り発表されましたが、公開までのプロモーション期間とハリウッドにおける全米映画俳優組合ストライキが重なってしまい出演俳優たちによる宣伝が一切行えなかったこともあり、興行的にはかなり苦戦を強いられました。MCUほどのブランドでも宣伝は大事、という例とみることができるでしょう。

 

また私個人の話に戻ります。今後、絶対観ると決めている作品なら自主的に事前情報をシャットダウンして公開時に新鮮な気持ちで観る、ということもできなくはないですが、やはり予告が発表されたら観てしまうと思います。予告や事前情報が解禁されたときのネット上の反応を見て共感したり、友人と内容を想像して話し合ったりするのも大事な映画体験の一つだと思っているからです。

 

長くなってしまいましたが、予告についても色々と考えさせてくれる作品でした。

 

読んでいただきありがとうございました。