映画予告編の悦楽

映画予告編の魅力をひたすら語っていきます!

「バンクシー 抗うものたちのアート革命」予告 / ストリートカルチャーの勢いを表現

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「バンクシー 抗うものたちのアート革命」(2020)の予告をご紹介します。覆面アーティスト「バンクシー」について描かれたドキュメンタリー作品です。

 

映画『バンクシー 抗うものたちのアート革命』予告編

https://youtu.be/jcjTQLc58-I

 

 

 

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〇ストリートカルチャーの勢いを表現

勢いのある音楽に乗せ、バンクシーによるこれまでの奇抜な作品表現が流れていきます。

 

この作品、単にバンクシーの活動を紹介するだけではなく歴史的なストリートカルチャーとの関係などについても深堀りされるようです。


クライマックスでは、2018年にロンドンのオークション会場で落札後のバンクシーの作品がシュレッダーで切り刻まれた事件が描かれます。実際には会場の人々は何が起きているか分かるまで時間がかかり、裁断も途中で止まったりしてグダグダだったみたいですが、予告では音楽の盛り上がりも相まってとてもセンセーショナルな事件として表現できています。

 

全体的にクオリティの高い予告かと言われると分かりませんが、以前から個人的にシュレッダー事件が印象に残っていて、それが予告的に切り取られているのが嬉しかったので紹介してみました。

 

読んでいただきありがとうございました。

「スペシャリスト 自覚なき殺戮者」予告 / 裁判の記録映像から浮かび上がるもの

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「スペシャリスト 自覚なき殺戮者」(1999)の予告をご紹介します。ナチスの親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンを被告人とする裁判の記録映像を基に構成された作品です。

 

アイヒマン裁判」を描いた傑作ドキュメンタリー/映画『スペシャリスト』予告編

https://youtu.be/ZXm90r9gnpQ

 

 

 

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〇裁判の記録映像から浮かび上がるもの

数百万人に及ぶユダヤ人の強制移送を指揮した人物がどんな悪人面をしているのかと思えば、被告人席に立つアイヒマンはどこにでもいる小役人にしか見えず、そのことが世間に衝撃を与えました。予告後半に現れる字幕の「悪の凡庸さ」とはそのことを指しています。

 

神経質に眼鏡を拭く男に特別変わったところは見られません。彼は猟奇的なサイコパスなどではなく、ただ命令を忠実にこなすタイプの人間であったことがナレーションで語られます。

 

アイヒマンは、法廷で死刑が求刑されました。


記録映像ならではの生々しさが予告でも如実に表れています。

 

読んでいただきありがとうございました。

「インスペクション ここで生きる」予告 / 作品に寄り添う静謐な予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「インスペクション ここで生きる」(2022)の予告をご紹介します。ゲイであることを隠し海兵隊に入隊した監督自身の物語です。

 

【8月4日(金)公開】『インスペクション ここで生きる』本予告

https://youtu.be/-vkgRXe2ck4

 

 

 

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〇作品に寄り添う静謐な予告

作品の魅力を丁寧に汲み取って伝えている素晴らしい予告だと思います。派手なアクションシーンがないヒューマンドラマ系の作品の予告は本編のあらすじを紹介するだけになってしまいがちですが、この予告は胸打つ台詞を効果的に演出することでそれ以上の役割を果たせています。

 

前半では入隊の経緯が描かれますが、感情を押し殺したような主人公の表情が印象的です。

 

中盤の台詞で、彼が海兵隊へ入隊した切実な思いが明かされます。ここは本編でもおそらく重要な場面だと思いますが、なぜ入隊したのかという動機を明らかにすることで彼の人間性が一気に伝わりやすくなるので、予告に入れて正解ではないでしょうか。

 

本編ではゲイであることへの偏見に晒されて苦悩する描写もあると思いますが、予告で過度にそのような描写を盛り込むのではなく、彼と真摯に向き合って海兵隊としての心得を説く上官の台詞を挿入することで、観てる人も作品の中に希望を見出すことができます。

 

予告で使われている楽曲はserpentwithfeetによる” The Hands”です。美しい歌声と独特な音階が特徴的で、作品に対するイメージを的確に肉付けしています。

 

The Hands (From the Original Motion Picture “The Inspection”)

https://youtu.be/lIXmI3O96_Y

 

読んでいただきありがとうございました。

「PAPERS, PLEASE」予告 / 数十秒で作品の世界観に引き込む短編映画予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「PAPERS, PLEASE」(2018)の予告をご紹介します。入国審査を題材とした同名ゲームの実写化作品です。

 

PAPERS, PLEASE - The Short Film Teaser Trailer (2017)

https://youtu.be/rVEQMDkUM84

 

 

 

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〇数十秒で作品の世界観に引き込む短編映画予告

約10分の短編作品のTeaser Trailerなのでとても短いです。それでも、響き渡る足音や無表情のままゆっくりと入国者を目線で追う主人公の顔つきが印象的で、非常に緊迫感ある予告となっています。

 

本編はYouTubeで無料公開されているので、興味のある方はぜひ。日本語字幕にも対応しています。

 

PAPERS, PLEASE - The Short Film (2018) 4K SUBS

https://youtu.be/YFHHGETsxkE

 

読んでいただきありがとうございました。

「マーベルズ」予告 / クロスオーバーの魅力が詰まったMCU予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「マーベルズ」(2023)の予告をご紹介します。MCUの作品で、「キャプテン・マーベル」(2019)の続編にあたります。

 

Marvel Studios’ The Marvels | Teaser Trailer

https://youtu.be/iuk77TjvfmE?si=U00ehp366pIqPX6q

 

 

 

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映画「キャプテン・マーベル」(2019)で初登場し、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019)でも活躍したキャプテン・マーベルと、彼女と幼少期から親交がありドラマ「ワンダヴィジョン」(2021)で特殊能力を得たモニカ・ランボー、それからドラマ「ミズ・マーベル」(2022)で16歳にしてスーパーヒーローとなったカマラ・カーンの3人を中心とした作品です。

(皆さんはMCUにどこまでついて行けているでしょうか…。私は所々記憶があいまいな部分がありますが、なんとなくでも意外と楽しめるのがMCUです。)

 

〇クロスオーバーの魅力が詰まったMCU予告

エンドゲーム以降の各作品はそれぞれ単独のヒーローにスポットを当てるものが多く、がっつりクロスオーバー感のある作品は意外と久しぶりです。

年齢もバックボーンも異なるキャプテン・マーベルとカマラの共演はMCUならではです。圧倒的な強さを誇り使命感を持って悪と戦うキャプテン・マーベルと、ヒーローになりたてでキャプテン・マーベルのファンでもあるミーハー気質なミズ・マーベルが、能力の発動によって体が入れ替わってしまうという特殊な条件により共闘せざるを得なくなります。状況に戸惑いながらも憧れのヒーローと組めることにテンションぶち上げのカマラと、10代のカマラに振り回される最強ヒーローのキャプテン・マーベルというミスマッチ感が予告全面に出ていて、とても楽しげです。

 

最初の場面でモニカ・ランボーと入れ替わりミズ・マーベルがニック・フューリーの前に現れますが、彼女の怖いもの知らずな若さが序盤から良く表れていると思います。

 

一方宇宙で戦っている最中に、突然自身のイラストが多数張られた少女の部屋に飛ばされたキャプテン・マーベルは困惑の表情を見せます。

 

BGMは作品の空気感に合うよう軽快なものが使われています。

分かりにくいですがモニカ・ランボーたちがミズ・マーベルの自宅を訪問する際のノックの音がちょうど音楽のリズムと合っています。細かいですが、予告編のためだけのこういう工夫はテンションが上がります。MCUはやっぱり予告編も凝ったものを作っていて、ありがたい限りです。

 

憧れのアベンジャーズにスカウトされると思ってノリノリで能力を見せびらかすカマラと、その無邪気さによって再び戦闘の最中に強制移動させられいら立つキャプテン・マーベルという対比がワンシーンで上手く表現されています。過去作ではその圧倒的な強さから余裕のある表情を見せることが多かったキャプテン・マーベルですが、思い通りにいかず10代の少女に振り回されるときの表情も非常に魅力的です。一つ一つの所作を見ても演じるブリー・ラーソンは良い女優だしキャプテン・マーベルはハマり役だなと感じます。

 

可愛らしい猫に見えて実際は凶暴なエイリアンであるグースも前作に引き続き登場します。

 

カマラの地元のイベントに参加するキャプテン・マーベルが、頑張って場に馴染もうとしていることがこの一瞬の場面でもよくわかります。

 

クライマックスではS.H.I.E.L.D.を指揮するニック・フューリーも登場し盛り上がりを見せます。前作で主要人物でしたが今作の出番も多いみたいでうれしいです。

 

新たな登場人物の顔見せもあります。何の役か分かりませんが、彼は「梨泰院クラス」のパク・ソジュンですね。

 

グースのお仲間もこんなに…

 

締めのシーンもとても良いです。憧れのヒーローとチームを組むことに感無量といった様子のカマラ。彼女もこの予告の中でたくさん良い表情を見せてくれます。

 

読んでいただきありがとうございました。

「イニシェリン島の精霊」予告 / 作品の印象を決定づけるシリアスさの線引き

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「イニシェリン島の精霊」(2022)の予告をご紹介します。アイルランドの孤島で暮らす二人の男を描いた作品です。

 

『イニシェリン島の精霊』予告編│2023年1月27日(金)公開!

https://youtu.be/THehyBCiFGc

 

 

 

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〇作品の印象を決定づけるシリアスさの線引き

派手さはないですが、作風に合うように作られた渋くて良い予告だと思います。全体的に孤島がもたらす閉塞的な雰囲気が良い味を出しています。

 

コルムから絶縁を告げられパードリックが困惑する序盤のパートは、周りの島民たちの反応も含めて軽めに描かれています。

 

ですが中盤からBGMが荘厳な雰囲気に変わり、コルムは次に話しかけたら自分の指を切り落とすと脅します。コルムが本気であることを示すこの台詞が予告の中でターニングポイントになっているように思います。

酒場にいる人たちのリアクションも先ほどとは違って深刻なものになっています。

 

後半ではBGMがカントリー調の音楽に変わります。予告全体で3種のBGMが使用されていますが、無駄がなくそれぞれきちんと役割を持っているように感じます。

 

懺悔室のようなところで、コルムの

「それは罪じゃないですよね?」という問いに対し、

「罪ではないが 善でもない」と神父が返答します。

思わずコルムの真意が気になる、引きの強い演出です。

 

終盤では物を投げたり人を殴ったりする場面が畳みかけられ、視覚的にも聴覚的にも予告の山場を演出しています。


最後の二人の掛け合いがシンプルですが本当に格好良いです。

「もうやめよう」というコルムの言葉に対して、予告内では困惑する描写の多かったパードリックが、

「いや ここからが始まりだ」とここに来て初めて強い意志を見せます。

BGMも太鼓のようなリズムだけが残りより台詞が際立ちます。

 

タイトルロゴの背景は海に向かう二人のバックショットとなっています。

 

予告内で明かされている情報はかなり少なく、タイトルにもある精霊については全く触れられていませんが、情報を制限することで予告全体のミステリアスな雰囲気を形作っているように思います。

 

読んでいただきありがとうございました。

「ディザスター・アーティスト」予告 / 有名(?)な場面を再現したティザー予告

映画予告編の魅力について語っていきます。

 

今回は「ディザスター・アーティスト」(2017)の予告をご紹介します。2003年に公開された「ザ・ルーム」という映画の製作過程を描いた作品です。

「ザ・ルーム」は公開当時、理解不能な脚本や拙い演技などにより酷評されましたが、後年一部マニアたちから一周回ってカルト的な人気を博すようになりました。監督・主演であるトミー・ウィゾー本人の謎多き言動も人々を引き付けています。

 

The Disaster Artist | Official Teaser Trailer HD | A24

https://youtu.be/4qab3TMg42k

 

 

 

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〇有名(?)な場面を再現したティザー予告

日本語字幕がついていないですが、あるシーンの撮影をしているということさえ分かれば大丈夫だと思います。

 

これまでにご紹介した「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」や「インターステラー」の予告と同様にこれはTeaser Trailerといって本予告が出る前の短めの予告編となっています。

 

「ザ・ルーム」は不可解な場面の多い作品ですが、その中でも代表的な屋上のシーンの撮影風景を再現した場面がこの予告で使われています。気怠そうな演技から急に何事もなかったかのように"Oh hi Mark"と呼びかける不自然さや独特のイントネーションなどがよく指摘されるシーンです。普通に建物の屋上で撮影すれば良いのに、わざわざグリーンバックで撮影して街の景色を合成したことでかえって違和感を生んでいることも指摘されています。

この有名(?)なシーンの撮影風景が描かれているだけで、一部のファンにはたまらなかったのではないでしょうか。この映像自体がやや手ブレしていてドキュメンタリー感が出ています。

 

やる気があるのかないのか分からない主演のトミーや彼の謎のこだわりに付き合わされる製作スタッフたちを端的に表した場面で、Teaser Trailerにぴったりの切り取り方だと思います。脈絡のない台詞を何回も復唱させられるスタッフが気の毒になります。


ただラストで無事にシーンを撮り終えた瞬間はスタッフたちの一体感が感じられ、短い予告の中で良い場面としてまとまっています。

 

ちなみに元となった「ザ・ルーム」は日本では上映されずDVDなどの販売もありませんでしたが、この「ディザスター・アーティスト」の効果もあってか近年日本での需要も高まり2020年に一部劇場で限定公開されました。そのときプロモーション予告が作られましたが、作品を”駄作”として紹介する世にも珍しい予告となっています。

 

世界中で愛された奇跡の駄作!伝説のカルト映画『ザ・ルーム』予告編

https://youtu.be/hesNjRk_5S0

 

読んでいただきありがとうございました。