「ガルヴェストン」予告 / 逃避行をドラマティックに描く迫真の予告
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「ガルヴェストン」(2018)の予告をご紹介します。
病に侵された殺し屋と、偶然出会った娼婦の逃避行を描いた作品です。
エル・ファニング熱演!映画『ガルヴェストン』予告編
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○逃避行をドラマティックに描く迫真の予告
この予告は特に後半が、楽曲の力もありすごくドラマティックに描けていると思います。主演の二人の身を削った迫真の演技を観ることができます。
後半に流れている曲はX-Ray Dogの” Hurricane”です。
ガルヴェストンで束の間の安息を楽しむ三人の描写がとても切ないです。
彼らに追手が迫ってから、物語も曲も激しさを増します。
字幕が対照的な二人をすごく上手く表現できているなと思います。
読んでいただきありがとうございました。
「トロール・ハンター」予告 / ノルウェー産の掘り出し予告
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「トロール・ハンター」(2010)の予告をご紹介します。
北欧神話に登場する伝説の怪物トロールの生態を追った疑似ドキュメンタリー形式のノルウェー映画です。
映画『トロール・ハンター』予告編
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○ノルウェー産の掘り出し予告
今までの中で最短の予告編です。
これまで紹介してきた予告と比べると完成度は高くないかもしれませんが、なぜか好きな作品なので紹介します。
最初はドキュメンタリー風の穏やかな語りから始まります。
40秒の中でもちゃんと緩急がつけられています。
トロールハンター、ハンスさんの叫び声からBGMも一転して、次々とトロールの衝撃映像が流れ込みます。言ってしまえばこの作品、トンデモパニック映画ですが、トロールの映像はちゃんと迫力があって怖さもあります。
「本当に、本当に、いる。」
という煽り文句がすごくしっくりきます。
面白いのが、それまでトロールの一部だけ映して全体はわからないようにすることで未知の怪物というイメージを保っていたのに、タイトルロゴの後、あっさりとトロールの全身を映し出してしまっているところです。とにかく作品に興味を持ってもらうために予告で出し惜しみしないのがとても良い判断だなと思います。
この映画、正直マイナーな部類かと思いますが、公開当時日本の配給会社が力を入れていて、かなり凝った特別映像が2本作られています。気になった方はこちらもぜひ(もちろん本編も)。
『トロール・ハンター』特別映像1
『トロール・ハンター』特別映像2
埋もれている名作予告編はまだまだたくさんあると思うので、これからもいっぱい観ていきたいです。
読んでいただきありがとうございました。
「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」予告 / たった2分でもジェイクの演技が心に残る
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」(2015)の予告をご紹介します。
ジェイク・ギレンホール主演の人間ドラマ。原題は” Demolition”で、「解体」の意味です。
ジェイク・ギレンホール主演『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』予告編
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○たった2分でもジェイクの演技が心に残る
序盤は予想外に物語が進みますが、後半からものすごく優しい着地を見せるという割と珍しいタイプの予告かなと思います。
冒頭の唐突な交通事故の画と、淡々としたナレーションのギャップが強くて、さっそく作品に引き込まれます。
主人公のデイヴィスは、妻を亡くしたにも関わらず悲しみの感情が沸かないと打ち明けます。鏡の前で泣こうとしてもすぐ真顔に戻ってしまうシーンが、デイヴィスの混乱した感情を表しています。
そして、自動販売機の会社に苦情の手紙を送ったことからシングルマザーのカレンと息子のクリスに出会います。この部分はあまり省略せずストーリー通りに描かれています。
周囲の助言もあり、感情を取り戻すためにまず今あるものをすべて壊そうと決意し、カレンとともに家を解体していきます。
流れている曲はHeartの” Crazy On You”です。場面に合うようにテンポの良い激しめの曲が選ばれています。
Heart - Crazy On You • TopPop
そのあと急に、Half Moon Runの” Warmest Regards”という穏やかで優しい曲に変わります。
Warmest Regards (Official Version)
BGMの落差が凄いですが、これも物語のそれぞれのパートに合うように選ばれた結果だと思います。
「最強のふたり」と同じパターンで、前半にメジャーな曲を当てて、後半にインディーズバンドのあまり知られていない曲を抜擢しています。
曲が” Warmest Regards”に変わってからは、とにかくギレンホールの演技、表情が素晴らしくて心に残ります。
「ジェイクが全身全霊の演技でまた魅せてくれる」
と海外誌の評が出てきますが、本当にそうだなと思います。
車中でメモを見て涙を見せるシーンは、前半で泣こうとしても泣けない描写があったからこそ、心が正常に戻ってきてるんだということが分かります。
ちなみに邦題の「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」は、ここの青いメモに書いてある言葉からとっているようです。
最後のカレンとのシーンもとても良いです。
他の予告とはちょっと違った構成かもしれませんが、心に残るシーンがたくさん詰まった素晴らしい作品です。
あと、予告とは関係ないですが、前回紹介した「THE GUILTY/ギルティ」が、ジェイク・ギレンホール主演でハリウッドリメイクされるそうです。
読んでいただきありがとうございました。
「THE GUILTY/ギルティ」予告 / "音"の落差に釘付けになる
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「THE GUILTY/ギルティ」(2018)の予告をご紹介します。
緊急通報指令室のオペレーターであるアスガーが直面するある事件を描いたデンマークの作品です。
映画『THE GUILTY/ギルティ』予告編
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○"音"の落差に釘付けになる
「トゥモローランド」を紹介した時に、良い予告編は①斬新な設定をうまく表現するタイプと②シンプルなストーリーでも演出・音楽によって印象に残るものにするタイプがあると書きましたが、この予告は完全に①のタイプです。
オペレーターの主人公が電話から聞こえてくる声だけを頼りに事件を解決していくという特殊なストーリーを、緩急つけて上手く表現しています。
コール音で始まり、電話をとったアスガーが異変に気付き、電話の相手が今誰かに誘拐されていることを突き止めます。観てる人を冒頭から作品に引き込みます。
アスガーが電話越しに指示を出して犯人を突き止めようとする様子が、緊迫感・スピード感たっぷりに描かれます。
字幕もかなり重要な役割を果たしていて、状況を説明したり、海外の称賛評を入れて本作の魅力を伝えたりしています。
そして終盤で、唐突に音楽が止み、何かに気付いたようなアスガーの表情が映された後、
「犯人は 音の中に 潜んでいる」
という字幕がゆっくり現れます。
そして最後は、始まりと同じくコール音が響く中、タイトルロゴが現れます。
静かに始まり事件が少しずつ明らかになる序盤、アスガーの奮闘をスピード感をもって描く中盤、急にトーンダウンして字幕・タイトルを印象付ける終盤と、緩急のつけ方が素晴らしい予告編です。
読んでいただきありがとうございました。
「裏切りのサーカス」予告 / 重厚かつスリリングなサスペンス予告
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「裏切りのサーカス」(2011)の予告をご紹介します。
ゲイリー・オールドマン主演のスパイサスペンスです。
映画『裏切りのサーカス』予告編
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○重厚かつスリリングなサスペンス予告
英国諜報部幹部の中に潜むソ連のスパイを探し出す任務を、退職した老スパイのスマイリーが引き受けます。この冒頭部分は静かで重い雰囲気です。
疑いをかけられている4人の幹部たちがコードネームとともに紹介されます。全員悪そうな顔をしていて、怪しく思えます。
スマイリーが「スパイ」とつぶやくシーン、本編ではどういった意味なのでしょうか。
スマイリーや仲間たちが周囲の眼をかいくぐりながら任務を遂行する様子がスリリングに描かれます。この部分から徐々にテンポが上がっていきます。
終盤では、スパイという職が抱える業や孤独について登場人物たちが吐露していきます。どのシーンも名優たちの演技が光ります。
プアマンの背後にスマイリーの仲間のピーターが現れるシーン、よくわからないけどドキッとする構図です。
最後、チェスの駒を裏返すとスマイリーの写真が貼ってあり、その後スマイリーの思い詰めたような表情が映って予告編が終わります。彼にも何か秘密があるのかと勘ぐってしまいます。
重厚なサスペンス映画の予告なので、今まで紹介してきた中でもかなり重苦しい部類ですが、決して平坦ではなく、俳優たちの演技が際立つシーンや展開が気になるシーンが随所に入っていて、とても本編が観たくなる予告だと思います。
読んでいただきありがとうございました。
「アヒルと鴨のコインロッカー」予告 / 予告全体をボブ・ディランの歌声が優しく包み込む
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007)の予告をご紹介します。
伊坂幸太郎による同名小説の映画化作品です。
アヒルと鴨のコインロッカー(プレビュー)
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○予告全体をボブ・ディランの歌声が優しく包み込む
物語の鍵となるBob Dylanの” Blowin' in the Wind”が予告全体で流れています。ストーリーとしては悲しい場面もある話ですが、ボブ・ディランの優しい歌声とギターの音色によって、予告全体がこの上なく軽やかな印象を持ちます。この点が本作特有の魅力といえるでしょう。主演となる瑛太のどこか気の抜けたしゃべり方も、軽やかなイメージの一端となっているかもしれません。
Bob Dylan - Blowin' in the Wind (Audio)
「神さま、
この話だけは、
見ないでほしい。」
という字幕から始まります。この作品にぴったりの良い導入だなと思います。
ボブ・ディラン、本屋襲撃、ブータン人、広辞苑と広辞林、神さま、アヒルと鴨、といったキーワードが出てきますが、この予告を見ただけでは何がどことつながっているのかわからないでしょう。登場人物の説明も詳しくはせず、本編のシーンを短く繋ぎ合わせた構成となっています。ストーリーの詳細は分からないけど、何か面白そう、観てみたい、と思わせる予告ではないでしょうか。
瑛太が車の中で声を上げるシーンが、ボブ・ディランの穏やかな曲と対照的で印象に残ります。
タイトルロゴが出て、曲も途切れ、予告が終わるかと思いきや、今度は濱田岳が歌う” Blowin' in the Wind”が聞こえてきて、主人公二人が出会うシーンが最後に流れます。「偶然の出会い」が大きな意味を持つ本作に対して、良い予告の終わり方だと思います。
本編を観てから改めてこの予告を観れば、いろいろなことが分かって初見のときよりも楽しめるかもしれません。
読んでいただきありがとうございました。
「グリーンブック」予告 / 全てにおいて完成度の高い教科書的予告
映画予告編の魅力について語っていきます。
今回は「グリーンブック」(2018)の予告をご紹介します。
ジャマイカ系アメリカ人のピアニスト、シャーリーとイタリア系用心棒のトニーがアメリカ南部を周るコンサートツアーを描いた作品。
2018年のアカデミー賞で作品賞を受賞しました。
【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告
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○全てにおいて完成度の高い教科書的予告
本編を観ると、この予告編が本編の大事な要素を無駄なく自然に配置していることがよくわかります。
最初にトニーがシャーリーとツアーを周ることになった経緯をナレーションも交えてコンパクトに伝えていて、タイトルとなった「グリーンブック」についての説明もちゃんと入っています。また冒頭のこの時点ではトニーも黒人に対する偏見を持っていることが、直接的ではなくても言い方や仕草から表れています。
その後二人の旅が始まります。
ガサツなトニーと、トニーの言動に呆れるシャーリーという対比は、コメディ要素として本編で大事な部分ですが、この予告ではそれを端的に表したカットがいくつか入っており、尺をとることなく表現できています。
トニーの妻にあてた手紙に対してシャーリーがアドバイスする場面がありますが、このようなシャーリーからトニーへの働きかけをちゃんと入れることで、二人が演者と用心棒という立場を超えた関係性を築いていることが伝わってきます。
手紙の中でトニーがシャーリーの実力を認めていることが書かれています。この部分、トニーの口から直接言うのではなく妻による手紙の音読で伝えられていて、自然で上手いなと思います。
また、シャーリーが差別や偏見を受けながらツアーを続ける理由も、本人の口からではなくシャーリーの演奏者仲間から話されます。
そして最高のタイミングで、シャーリーの演奏シーンと音楽のサビが重なります。この予告は細かい構成も上手いし、このような見せ場の作り方も見事だと思います。
流れているのはAloe Blaccによる”I Count On Me”という曲です。
Aloe Blacc - I Count On Me
後半は二人が偏見の中でもシャーリーの音楽を届けようと奮闘するシーンが続きます。シャーリーが周囲からの扱われ方に悩み、雨の中声を張り上げる場面が印象的です。
字幕で「ラ・ラ・ランド」や「最強のふたり」などあまり関係のない作品を引き合いに出し過ぎな部分もありますが、全体として作品の魅力を上手く伝えられている良い予告だと思います。
読んでいただきありがとうございました。